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しまいには犯人は本当にカボチャの妖精で、ハロウィンの不思議な力で消え失せたとまでいいだす始末。
磯崎は頭を抱えたが、車六はもう何杯目になるかも分からないコーヒーをすすって
「いやあ面白い。不可能犯罪はこうでなくては」
と呟いた。
磯崎は恨みがましく車六を睨む。
「あなたねえ……こっちは自分の首がかかっているんですよ」
「あんたの進退は俺にはどうでもいいことだ」
コーヒーを啜ると車六は満足そうに
「でもまあ、そろそろ本気を出すべき時かもしれないな」
その発言に磯崎は驚いて
「今までのは何だったんですか!!」
「軽い練習だよ。せっかくの不可能犯罪を前にして、すぐに解いてしまったのではもったいないだろう?」
そういって不敵に笑う車六。
磯崎は頭痛がしてきた。
「ということで、これから本気になるから、しばらく黙っておいてくれ」
そう言いはなつと、瞼を閉じ、ゆっくりとソファーに背をもたせる車六。
山の形にした両指を腹の真ん前に置く。
眉をひそめ、神妙な表情。
文句を垂れていた磯崎も、相手の雰囲気の変わりようにたじたじとなり、言葉が出てこなくなる。
静寂がその事務所に舞い降りた。
居場所を主張して憚らない本の山、無造作に脱ぎ捨てられた衣服。
寄る辺をなくした磯崎の視線はあちこちに飛ぶ。
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