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こう人が多く、しかも視界が遮られているときては、警戒もなにもあったものではないのだが。
止みそうにないウェーブの中で、磯崎は揺られに揺られる。
体の自由が効かない。
渋谷ほどではないとはいえ、普段閑散とした町なのに、どこからこのコスプレイヤー達は湧いてきたのだろう。
「もう限界だ!!」
コスプレ衣装をかなぐり棄ててしまいたい。
そう思わずにはいられない。
へしあい押し合い、自分の位置も定まらない。
そんな時だった。
叫び声がした。
意味にならない喉の叫び。
それが連続して続く。
それは浮かれた群衆がはじき出す声とは明らかに異質のものだった。
まるで絞り出すかのような声。
すると押しくら饅頭みたいに固まっていた人々の中で、一つの動きがあった。
そこだけ割れたように、くっきりと空間が出来上がる。
磯崎は最初何事が起こったのか分からなかった。
慌ててそちらの方に視線をやる。
人が倒れていた。
騒ぎ立てて疲れたためではない。
それはほとばしる鮮血と、背中に突き刺さったナイフから明らかだった。
「なっ」
呆然としたのは一瞬のことだった。
すぐに警察としての本分を思い出した磯崎はそちらに急いで駆け寄る。
現場では悲鳴が飛びかっていた。
「誰が、誰がこんなことを」
「あいつだ!!あいつがやったんだ!!」
声が指す方に視線を向ける。
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