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そのまま腕を離すと、磯崎は迷いなく三つに別れた道路の内、真ん中の岐路に足を踏み入れた。
再びの全速力。
道なりに並んだ飲食店どもが後景と化している。
やがて。
磯崎は行き止まりにぶつかった。
「はあはあ」
荒い息を吐く。
周りを見渡す。
どこにも、逃げたあの人間の姿はなかった。
どういうことだ?
磯崎は混乱した。
先ほど道を教えた青年が見間違えたのか?
それともー
落ち着け、俺。
磯崎は自分に言い聞かせると、それまで邪魔になっていたコスプレをかなぐり捨てた。
下から警察の制服が顔を出す。
いつもの服装に戻った磯崎は少しほっとした。
それでも追跡を絶やすわけにはいかない。
応援に駆けつけた他の巡査達と共に、さっそく聞き込みに当たった。
古ぼけた飲食店の店主達に詰問する。
彼らは一様に「全速力で走っていくカボチャを見た」と答えた。
「どういうことだ?」
磯崎は眉をひそめた。
三つに別れた岐路の内、下手人がこの道に入り込んだのは彼ら目撃者の言から間違いはない。
だが、あのパンプキン野郎は道の行き止まりにたどり着いても見あたらなかった。
消え失せたのだ。
「馬鹿な……」
磯崎は絶句した。
遠く離れた群衆が「トリックオアトリート!」と叫んでいる。
楽しげな彼らとは裏腹に、磯崎にとっては最悪のハロウィンだった。
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