桜並木と僕と

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 桜並木は、町の春夏秋冬を見守ってくれる。地元の桜並木と言えば地元の誰もがわかる、かけがえのない宝物。地元の子供達はこの桜並木に見守られて大きくなる。街の人達の生活は、桜並木を中心に営まれる。これまでの僕がそうだったように。  しばらく見ることの出来ないであろう桜並木を、過去の思い出を振り返りながら見ると不思議と涙が込み上げてきた。悲しいわけではないのに、どうしてだろう。  涙がこぼれ落ちないように、必死に上を向く。見上げた先には、青空の下で意気揚々と咲き誇る桜の花達がいる。ピンクがかった白、やや濃いピンク、雪かと間違えるほどの白。品種によって、花びらの色が若干違うことに、今になって気付いた。  この桜並木は検診して、植え替えられて、それでもまだ続くんだ。誰かが存続させようとする限り、桜並木は維持されるんだ。そしてその桜並木の維持に、僕の町も少なからず貢献しているんだ。  有名人はいない、珍しい何かもない、歴史的に有名なわけでもない。そんな僕の生まれ育った町。だけど、一つだけ自慢出来るものがある。それは、複数の町にまたがって存在する桜並木を、町全体が支えようとしていること。 「皆さん、桜並木を維持するためにも『さくら貯金』にご協力ください」  桜並木をどれくらい歩いただろう。たくさんの屋台が並ぶ中で、気になる単語を耳にした。「さくら貯金」なんて、初めて聞く言葉だ。 「桜の名所を守るため、この素敵な桜並木を守るため、『さくら貯金』というものをやっています。気になる方は是非、声をかけてください」  これは募金活動の一つなのだろうか。僕の知らないところでお金が集められ、そのお金でこの桜並木は今日まで維持されてきたわけか。ボランティア無くして、この桜並木は……。  これなら、これから旅立つ僕でも桜並木に貢献出来るかもしれない。僕は、帰郷した時に桜並木があってほしい。だから――。 「すみません! 『さくら貯金』について詳しく聞かせてください!」  係の人に駆け寄ろうとした瞬間、頭上から桜の花びらがヒラヒラと降ってきた。それがまるで、桜並木が僕の旅立ちを祝福してくれるように思えた。桜並木のある僕の町に、幸あれ。
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