0人が本棚に入れています
本棚に追加
僕の住む町には立派な桜並木がある。三月下旬、今頃になると一気に開花して、町に彩りを添えてくれる。今年もそろそろ咲いてくれるかな。そんなことを思って桜並木に向かえば、まだ七分咲きの薄いピンク色が僕を出迎えてくれた。
今のペースで開花が進むのなら、僕がこの町を出ていくまでに満開になってくれるだろう。どうかそれまでに桜が散ってしまいませんように。桜並木を見ていると、懐かしい出来事をいくつも思い出すから。
春といえば決まって、町の桜並木を訪れた。物心がついた頃から毎年のように訪れて、桜並木の下を歩いて。そして、頭上から落ちてくるハート型の花びらを手のひらで優しく受け止めるんだ。
桜の蕾が少し膨らんでくると、この町は少し騒がしくなる。桜の開花に間に合うように提灯をぶら下げて、桜並木の下では屋台が組み立てられる。そして、桜の開花に合わせて「桜祭り」という祭りが始まるんだ。
桜並木の下に並ぶ屋台はとても楽しみだった。射撃の屋台から聞こえる銃声が怖くて耳を塞いだ。輪投げやダーツを豪華賞品目当てにやったけど、豪華賞品だけは一度も当てられなかった。バナナチョコやイチゴ飴をねだって食べ歩いたことは、今でも瞳を閉じれば思い出せる。
最初のコメントを投稿しよう!