桜並木と僕と

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 桜のピークは三月下旬から四月上旬。それ以降になると、雨風で呆気なく散ってしまう。桜並木の近くを流れる川は、桜が散る季節だけ薄いピンク色になる。川を流れる花びらに、春の終わりを感じていた。  観光客の減った桜並木が桜色から緑色に変わる頃になると、僕の大嫌いな夏がやってくる。夏もやっぱり、桜並木が町の象徴だった。  緑色に染まった桜並木からは嫌という程、蝉の声が聞こえてくる。その鳴き声には複数あって、不快感より先に「蝉も必死なんだな」となんとも言えない感情を抱く。僕は小学生の頃から実に子供らしくなかった。  夏休みだからと桜並木に向かい、木に向かって乱雑に虫取り網を振るう子供達。虫取り網に引っかかるのは蝉ばかり。良くて時折カブトムシが取れる程度。なのに、虫一匹でワイワイと盛り上がる子供達。  本当は仲間に入って一緒に虫取りをしたかった。カゴを肩にぶら下げて、虫取り網を持って桜並木の下を走って、大きな声ではしゃいでみたかった。だけど僕はそれが出来ないまま、大人になってしまった。  周りの子供達が虫取りではしゃぐのを遠目に見ながら、僕は一人で本を読んでばかりだった。自由研究も虫の標本や観察記録、なんて素敵なものは作れなくて。他の男子の持ってきた標本や観察日記を食い入るように見つめることしか出来なかったんだ。
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