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大学生になると、憧れの対象でしかなかった木陰が貴重な場所になった。夏は暑くて日差しが強い。だけど、企業からの電話を待つために外で時間を潰すことが多々あった。そんな時は決まって、この桜並木の下で休んでいたんだ。
桜の下で何度お祈りメールを読んだだろう。企業からの電話を待ちわびただろう。落選する度に、家族に見られないこの場所で声を殺して泣いたのは辛く懐かしい思い出だ。内定の連絡を受け取って人知れずガッツポーズをしたのも、この桜並木の下だった。
これでもかと広がった緑の葉は優しく僕を守ってくれる。耐えられないような太陽光から庇ってくれて、夏特有の湿気と暑さを緩和してくれた。何度この桜並木の下で一喜一憂しただろう、何度救われただろう。
桜並木の下を歩いていくうちに、見慣れた一本の大木を見つけた。昨年の夏、散々お世話になった桜の木だ。結構な樹齢らしいのに、今年も綺麗な花を咲かせている。そっと木の幹に手をあてれば、ザラザラとした硬い感触がした。
「今までありがとう」
きっとこの大木は、今年の夏も就活生の将来を無言のまま支えるのだろう。子供達の遊び場となって、静かに存在感を放つのだろう。どんな結果になっても、この木は人を見捨てない。多くの涙を吸って、子供達の声を糧にして、また一段と大きくなるはずだ。
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