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秋もやっぱり、桜並木の印象が強い。桜並木はこの町の宝だからだろう。これといった特徴のない町だけど、複数の町にまたがって存在するこの桜並木だけは、誇っていいものだと思う。
秋になると桜並木が涙を流す。赤茶色に変色した葉が、はらりはらりと歩道に落ちていく。絵面としては綺麗だけど、町民にとってはあまりありがたくない自然現象だ。
枯葉は歩道の邪魔になるし、強風が吹けば顔面を直撃する。春は美しい花びらを凛と咲かせるのに、秋だけは桜の木が寂しくなってしまう。桜並木維持のために町が動くのもこの時期だった気がする。
町民達の中で何人かが、ボランティアで枯葉を処分する。僕も何度か手伝ったことがある。枯葉の片付けをきっかけに、それまで顔も知らなかった町の人と仲良くなれたんだ。昨年は落ち込む僕を見かけては励ましたり、アドバイスをしてくれたりしたっけ。
枯葉の片付けとは別に、この時期に行われる恒例行事がある。木のお医者様が知らないうちにやってきて、桜並木を構成する木々を診断してまわるのだ。経過が芳しくない桜の木は後日伐採され、代わりに新しい桜の苗木が植えられる。
さらに、桜並木を維持するために歩道の修繕も行われる。大木になると根っこが地上に出てくるようになり、歩道が不自然に盛り上がってしまう。そんな桜の周囲の土壌関係を改善するためにも、歩道が作り直され、土壌の改良が行われる。
僕が小学生の時は無かったけれど、今の地元の小学生は桜並木の維持に関連する活動をするらしい。桜並木周辺の土壌調査を手伝ったり、根の張り方を確認したり。こうやって、桜並木が町の人々にとってかけがえのないものになっていくんだろうな。
欲を言えば、僕も桜並木に何らかの形で携わりたかった。小学校中学校と地元だったのに、僕がしたことと言えば町内会の手伝いをして夏の小さなお祭りに参加したことくらい。春の、桜の時期に行われる祭りにも、関わりたかった。
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