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雪が蕾の上にも積もったから、今年の開花がどうなるか不安だった。それは僕だけでなく町の人々も同じ。町を出歩けば今年の桜はどうか、桜祭りはどうなるのか、なんて話が飛び交っていた。
雪が止んだ直後は、こんなに早く桜が咲くなんて思いもしなかったな。屋台だって、組み立てが始まったのは昨晩のこと。桜祭りは今年も例年通り、三月最終週に合わせて始まった。
桜は儚い、すぐに散る、なんてよく言われる。たしかに桜の花は雨風によってすぐに散ってしまうかもしれない。その様は儚く、美しい。だけど、僕の知る桜の花は違う。
冬の寒さに負けず蕾をつけ、雪に負けずに蕾を膨らます。今にもはち切れそうに膨らんだ蕾が、ある日を境にぽつりぽつりと花びらを見せるようになる。
桜の蕾は、花のような儚さを感じさせない。どんなに過酷な環境でも耐え忍び、花を咲かせるタイミングを計っている。力強く我慢強い、そして美しい植物だ。
「よくこんな短期間で咲いたねぇ」
「雪がやんだ翌日には咲いたそうだよ」
「なんとまぁ。今年こそは、花びらの方も長生きしてほしいねぇ」
桜並木を歩く人々が思い思いに口にする、今年の桜への思い。今年の桜がどのように散って、どのような葉を付けるのか。そしてどんな風に枯葉を散らし、冬を越すのか。残念ながら僕がそれを見ることは叶わない。
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