錬金術師の朝

3/3
前へ
/22ページ
次へ
「所で師匠、今日はどんな予定がありますか?」 「うーん、そうだなあ、気が向いたらやってもいいようなどうでもいい仕事なら山ほどあるが、面倒だからいいや。それより少し遠いが移動遊園地がやってるそうだからそこに行こうかなと思っている」 「遊んでいるぐらいなら仕事をしてやったほうが良いのでは?」 「馬鹿言うな。駄目なやつほど人を頼りすぎる。連中を甘やかしたところでロクなことにはならんよ。それよりお前、窯や機材の掃除は済んだのか?」 「もう終わっています。なんなら師匠の持っている数多くのぬいぐるみも洗濯しましたから」 「ほほう、それは気が利くな。なら踊り茸の採集はできたか?」 「それは難易度が高すぎて難航しています」踊り茸は天ぷらにして食べるとかなり美味だ。ただし見つけることが難しいのと、食べすぎると中毒を起こすので注意が必要だ。たまにバザーで売り出されることがあるが一欠片で5000ディアもする高級食材として扱われる。師匠はそれを大金はたいて山ほど買ってきてすべて焼いて食ったことがあるらしい。その時私は宇宙を垣間見た気がする、と言っている。 「俺としては鉱物の扱い方や錬金術師としての知識を伝授して欲しいんですけど」 「何を言うか、教えてできるようになるもんなんて後でいい。今は外に出て物事を経験しろ。世界を全身で感じてセンスを磨くんだ」  師匠がそう言っても俺は上手く利用されている感が否めない。踊り茸でもそうだが、今はアユの時期だから釣ってこいとか、でかいクワガタで大会に出るから取ってこいとか錬金術とはあまり関係ないことをやらされることが多い。当初は大物錬金術師の弟子になれると高揚していたが、現実はあらゆる気まぐれに付き合わされて辟易している。まあしかし仕方がない。天才との付き合いはあらゆる意味で大変なのだから。俺はもちろん覚悟して毎日師匠のためにホットケーキを焼いている。焦がさないように慎重に。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加