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専用格納庫の扉が開く。扉の奥には、君がいた。身長158cmで痩せ型の君は、僕を見ると頬のこけた顔で微笑む。骨と皮しかない細い指が僕に向かって伸びた。精神状態良好、身体状態不良。早急に休ませることが推奨される。
頭ではすぐにわかった。だけど、すぐにそれを実行には移せない。プログラムに異常はない。ただ、身体が上手く動かせないだけ。新しいタイプのエラーだろうか。
「おはよう、海」
海、それが僕の名前のようだ。君が僕に命を吹き込んだ。目覚めたばかりの僕を君が抱きしめてくれたのに、その意味がわからない。君はどうして泣いてるの?
君が泣きながら僕を抱きしめるから、咄嗟にその背中に手を回した。お願い、どうか泣き止んで。君の泣き顔を見ていると、胸がおかしくなる。誰かの声が、僕の脳内に聞こえてくる。
『僕は、笑顔が見たいんだ。早く笑わせなきゃ』
その先に続く言葉がすぐに思い浮かんだ。
『泣かないで、笑っていて。君は笑顔の方が似合うから』
初めて会うはずの君に見覚えがあるのは、気のせいだろうか。メモリファイルを辿っても君の姿はないのに、どうして君を見て胸の奥の方がざわめくのだろう。
君の姿を照合しようにも、一致するものは無い。元になった人間のデータは入っているのに、その中に君に関するデータは欠片も残されていない。まるで誰かが君に関するデータだけを抹消したかのように。そんなこと、プログラム上可能なのだろうか。
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