05.預言者は語る

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 どうでもいいことを考えていれば、コツリ……足音が聞こえて顔を上げた。常のロビンは猫のように足音を響かせない。  聞かせる目的があるのだろうと目をやれば、立ち止まったロビンが三つ編みの穂先を指先に絡め、くるりとまわした。 「死体は5体。腕を切り離された胴体と頭部で1体、胴体のみで2体、3体目は頭部のみ、腕で4体、最後に指で5体……殺害現場は屋内、だが絨毯もフローリングもない土の上だろう。同じ場所で5人は殺傷されているが、腕の持ち主は、生存の可能性が僅かにある。指の持ち主は水の中から見つかる筈だ」  すでに事件の全貌がみえているような、まるで予言にも似た発言だった。確証があるのだろう、彼の口元は笑みを浮かべている。 「……検死結果はまだの筈だが?」  小首を傾げてコウキが否定の色を滲ませた疑問を呈すれば、稀代の天才殺人鬼は唇の前に人差し指を立てた。  沈黙を意味する仕草から、ロビンは踵を返して歩き出す。手首の手錠から伸びた鎖が、じゃらりと乾いた金属音を響かせた。 「稀有なる羊、『ヘロディアの娘』を知っているか?」  ヘロディアの娘……新約聖書に登場する1人の少女だ。ユダヤの王ヘロデ・アンティパスに嫁いだヘロディアが、ヘロデ王の弟である前夫との間にもうけた娘と記されている。     
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