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直感に近い、根拠がない閃きに似た感覚だ。しかし、コウキは『直感が経験に裏打ちされる』ことを知っている。
血が流れた痕跡のない、綺麗な切り口の親指―――まるで人形の指のように現実感が薄かった。
犯人のものでも、コウキのものでもなく、もちろん死体のパーツでもない親指は何を示しているのか。
浮かんだのは、あの嫌味な口調で神を否定し続ける天才の笑み……。
ずきっと頭が痛む。
「っ……」
左手で頭の傷口を探り、先ほどのハンカチで押さえる。滲む血が、白を赤に染め替えた。
……状況証拠なら俺が犯人か。
死体2つを作る体力はないが、そう判断されかねない状況だという自覚はある。
厄介な死体を見つめ、見覚えのない顔に溜め息を吐いた。どこの誰か判らない死体と鍵のかかった部屋で見詰め合っている現状に、頭痛も加わって気分は最悪だ。
コンコン。ようやく聞こえたノックに、貧血で眩暈のする身体を叱咤して立ち上がった。
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