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FBIが俺を疑うのは結構だが、まず動機がない。知らない人間を殺すほど暇ではないし、そんな趣味も興味もなかった。
第一、細身のコウキは見るからに非力で……逞しい大柄な被害者達の殺害は難しい。
自らが被害者を装うにしても、頭に怪我を負うリスクを考えれば、足や肩を銃で撃ち抜いた方が後遺症の心配もないだろう。
考えれば考えるほど、犯人には不向きだった。
なのに肝心の科学捜査もそっちのけで質問ばかり繰り返す連中の、手際の悪さがコウキの感情を逆撫でする。
「……俺が殺したと?」
何か言いたそうな捜査官へ「無能者」と嫌味を込めた眼差しで、抑揚のない声で淡々と尋ねた。
「いや……まさか、有名大学の博士号もお持ちの先生にそのような」
「Dr.タカシナ、こちらへ」
捜査官との不毛なやり取りが深くなる前に、外から声がかけられた。
振り返った先で手招くのは、FBIでもかなりの地位にいる男だ。研究対象であるロビンへの橋渡しをした彼は、普段デスクワーク中心で外へ出ることは少なかった。
呼ばれるままに後をついて歩き出す。
ようやく血腥い部屋から出られたことで、大きく深呼吸して気分を入れ替えた。
大学の中でも研究部門しかない棟は生徒もなく、しんと静まり返っている。20時を過ぎた構内はひどく寂しい場所だった。
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