02.うんざりする呼び出し

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 カツン……靴音が硬質で耳障りに響く。 「すまなかったね、彼は優秀なのだが」 「優秀?」  眉を顰めて繰り返す。その末尾が疑問符だったことで、男は苦笑して肩を竦めた。 「君らと比べれば、誰でも愚鈍だろう」  皮肉かと思う余地もないほど、淡々と冷めた口調だった。  さっとコウキの頭から血が下がる。冷静さを欠いていた己に気づけば、あの捜査官への態度が罪悪感すら伴う苦痛を齎した。 「科学捜査も含め、すべて私の指示で行う。これ以上の不手際は防げると思う」  国家機関直属の男はFBIという組織を凌駕する権限を有している。その地位に見合うだけの実力もあるだろう。  ほっとする反面、疑問がわいた。  なぜこの男が自ら出てきたのか。情がうつるような付き合いはない上、感情に流されて現場へ出向くほど暇でもない筈だ。  なにか思惑がある。    研究棟を出た先に、黒塗りの乗用車が止まっていた。滑るようにこちらへ近づき、運転手が後部座席のドアを開いて一礼する。 「話の前に、治療した方がよさそうだな」  黙り込んだコウキを振り返った彼の灰色の瞳に、コウキは「やっぱり…」と気を引き締める。 「いや」     
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