02.うんざりする呼び出し

4/4
70人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 断ったコウキに、手のひらを向けて車に乗るよう促す。しかたなく運転席側を背に下座へ落ち着いたコウキは、向かいに座った男の手入れの行き届いたひげを睨みつけた。  視線を合わせなくても、相手からは目を見ているように見える場所が口元だった。  以前からコウキは相手の口元を見て話す癖がある。……あの殺人犯相手の時は別だが。 「これを使いたまえ」  座席に置かれていた救急箱を渡され、中をざっと確認して消毒液をガーゼに振り掛けて側頭部の傷に押し当てた。 「…っ」  痛みをかみ殺し、続いてネット包帯で簡単にガーゼを固定する。  髪の血を洗い流した後で再度の治療は必要だが、当面はこれで問題ないと判断して、ガーゼにしみこませた消毒薬で手の血を拭った。チリリと痛みが走るが、無視して作業を終える。  コウキの手が止まるのを待っていたように、男は静かに切り出した。 「『アレ』が君を呼んでいる」  アメリカ史上最悪、最凶の連続猟奇殺人犯、ロビン・マスカウェル。公式記録では処刑された死人だが、類稀なる才能を買われて政府直属機関に隔離されている。  その『管理人』という立場を与えられたコウキは、ゆっくり肩の力を抜いた。  よりかかったクッションに疲れた身体が沈みこむ。 「……わかりました」  そう答える以外、コウキに残された選択肢はなかった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!