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01.見知らぬ死体
偶然と呼ぶには、俺は世間を知り過ぎていた。
だから真っ先に浮かんだのは、あの男の顔――恵まれた容姿ととびきりの頭脳を持つ、史上最凶の連続殺人犯。
大学の研究室で溜め息を吐く。
目の前に転がるのは死体が2つだ。
脈を取るまでもなく、首と胴が離れた2人分の死体は死後硬直を起こしている。仰向けに転がり、天へ伸ばす形で固まった手は死にたくないと神に縋る姿に似ていた。
知らない人間が見れば、コウキが殺したように見えるだろう。
ひどい眩暈と頭痛に顳を押さえれば、己の血に手がべったりと濡れた。左側頭部が切れているようだ。
「……とりあえず、FBIだな」
国の特殊機関の要請で協力しているコウキが、殺人事件に巻き込まれた。地元警察ではなく、FBIに連絡する方が早いだろう。
どうせ回りまわって彼らが動くのならば、無駄な手間は省いた方がいい。
自らの血で赤く染まった手で、携帯電話を探すが見つからない。
仕方なく机の上の受話器を手に取りかけ、迷ってハンカチを取り出した。ハンカチ越しに受話器を握り、一応指紋をふき取らないように注意する。
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