02.うんざりする呼び出し

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02.うんざりする呼び出し

 真っ赤に染まった両手――固まった血がぱりぱりと音を立てて剥がれ落ちる。下から覗く肌はほどよく日に焼けているが、日系人と考えれば白い方だった。  数えるのも嫌になる回数の溜め息が口を吐く。 「それで? もう一度状況を説明してくれるかね?」  偉そうな上から目線の口調は慣れているが、現状では苛立ちの原因にしかならない。  目が覚めたら死体が転がっていた、それ以外の事実を知らない人間に何度説明させても答えは変わらない。  この話をさせられるのは4回目だった。 「何度説明しても同じだ。部屋の鍵を開けて、いつも通り研究室へ入った。直後に後ろから殴られ倒れた。頭痛に目を覚ませば死体が転がっている。救急車より先にFBIへ連絡した。以上だ」  だんだんと簡潔になっていく説明には「うんざりだ」の意思表示が込められている。  真っ赤に濡れたハンカチをゴミ箱へ放り込み、研究器具を拭く為のタオルを掴んで側頭部に押し当てた。じわじわと滲む血は大量ではないが、貧血による目眩を起こす程度の量には達する。  手当てを後回しに状況を説明し続け、コウキは珍しく苛立って舌打ちした。     
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