【 若さゆえ 】

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――ユリカは唐突だった。 「夏と冬どっちが好き?」  さっきまでの会話の流れとはまるで関係の無い質問をナチュラルにぶつけてくる。  俺は動じることなく答えた。 「やっぱり夏が好きかな」  すると、間髪入れずに「えーっ!冬の方が絶対イイよ!夏は暑いから大嫌い!夏は本当に地獄!」  ユリカは眉間にしわを寄せ、夏への嫌悪感むき出しで吠えた。  こんなにも夏が嫌いだなんて、彼女の身に一体何があったと言うのだろう。 「なるほどね」  適当に相槌を打ち、ゆっくり空を見上げると、どんよりとした曇が広がっている……    何かの番組で紹介していたカフェのパンケーキがとても美味しそうで、テラス席で爽やかな空気を感じながら食べるというシチュエーションも込みで最高に思えて。  いつか彼女を誘って行きたいなと夢描いていた。  今まさにその念願のテラス席で彼女と休日のオシャレパンケーキランチを満喫している最中。  もちろん晴れている方が良いに決まってるわけだが、この日に限って言えば結果的に曇り空でベストだ。  一般的には秋として語られる10月だが。  昼間の気温は20度を上回り、照り付ける日差しの中では半袖でも十分だったりする日もわりと多い。  個人的に10月は秋ではなく「ギリギリまで足掻いている夏」として過ごす事にしている。  幸い今日の空模様からは足掻きっぷりが一切感じられず助かった。  もしもカンカンに晴れていたらと想像すると、ゾッとする。  たとえパラソルで直射日光を防いだとしても、暑いのを極端に嫌うユリカが耐えられるはずもなく、テンションだだ下がりだったに違いない。  暑くなくてそれでいて寒くもなく、ほぼ無風のおかげでホコリが舞ったり髪が乱れる事もない。  野外にしては快適な状態だったおかげで、無駄に場が荒れずに済んだのは運が良かった。
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