三話 『被殺害保険』

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「そうですか。ハンムラビ法典はまさに当社のサービスを体現したかのような法律です。目を潰されたら目を潰し返し、歯を折られたら歯を折り返す。 まさにやられたらやり返すの精神。 非常にわかりやすいとはおもいませんか? 昨今では『やられたらやり返す!倍返しだ!」なんてドラマもありましたけれども、こちらは『やられたらやり返す!等倍返しだ!』なんて感じになるんでしょうか。 まぁ、別にドラマに影響を受けてサービスを開始したわけではないんですがね。 うちの創業は・・・」 「あの!すみません!お話は非常に興味深いのですが、結論だけを知りたいんですが・・・」 何度も何度も繰り返される与太話にしびれを切らせた私が横やりを入れると、男は時計を確認してから一言だけ告げた。 「つまりそう言うことです」 ・・・そう言うこと? この会話におけるそういうこととは「やられたことをやり返す」という一点のみに絞られるが、常識的に考えてそんなことはできるはずがない。 「えーと。正直に申し上げると、非常にばかばかしいですね。警察でもないのに犯人を特定できるわけないですし、例え人殺しをした相手でも勝手に殺せば罪に問われますよ」 保険料の安さにつられて来るべきところを間違えた。 私はそう思って営業マンの話を一蹴して席をたった瞬間。 突然、急激な眩暈が襲った。 「なん・だぁ・・」 景色がぐるぐると周り、必死の思いでソファに尻もちを付くと、営業マンは「時間通りですね」と呟いた。 最初から可笑しな接客だと思っていたが、どうやら何か薬を盛られたらしい。 私はソファに体をぐったりと押し付けながら、呂律の回らぬ舌に力を入れ振り絞るように声を出した。 「なんのぉ・・つもり・・だ・・・」     
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