一話 『株式会社 善意』

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内の事務所は基本的に個人主義で、どこへ行って何をしようが面白いものが書けるなら定時報告すら必要としない。 つまり、今日私がここに来ることは私以外の誰も知らないはずで、もちろん、手帳を取り出してメモを始めるような真似はしていない。 「・・・どうしてわかったんですか?」 私が素直に白状すると男は淡々と答えた。 「簡単ですよ。便利屋なんて得体のしれない事務所に初めて来る方はソワソワと落ち着かないものですが、あなたは非常に堂々とされていました。おそらく、こういった経験を何度もされているのでしょう。それにボイスレコーダーかと推察いたしますが、応接室に通した時に右のポケットで何か操作されましたね」 刑事ドラマを思わせるほどの名探偵ぶりにさらに驚いた私は、ポケットから物を取り出した。 「経験値が仇になりましたね・・・。次から気を付けますよ。それにしても、ボイスレコーダーに関してはスマートホンとは考えなかったんですか?」 「そちらは内ポケットですね。待合室で仕舞うのを確認していました」 そこまで見ていたか・・・。 「素晴らしい観察眼ですね。では、バレてしまったので本題に入らせていただきますが、こちらの会社で少し怪しい噂を耳にしたもので取材をさせ欲しいんですよ」 「構いませんよ」 即答だった。     
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