0人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうでしたか。それは、大変申し訳ございません。実は私こういう者でして・・・」
果たして本当に申し訳ないと思っているかは甚だ怪しかったが、手渡された名刺には『株式会社 善意』という何とも奇妙な社名が書いてあった。
「株式会社・・・、ぜんいであってますか?」
「ええ。そう読みます。実は当社は新聞を扱っておりまして、この辺でご入用な方がいらっしゃらないかと探しているんです」
「はぁ、つまり勧誘ですか・・・。申し訳ないですけど新聞ならもう取ってるんで、勧誘なら他を当たってください」
俺はそのまま扉を閉めようとすると、途中で何かに突っかかり、なんだろうと視線を下げた先には、ピカピカの革靴が扉の間に挟まっていた。
「ちょっと、足引いてもらえますか?」
俺は少し語気を荒げた。
「これは、すいません。ただ、一つお尋ねしたいのですが、本当に新聞を取っていらっしゃいますか?」
「はい?何言ってんすか?取ってますよ」
もちろん嘘だが、相手には確認のしようもない。
「では、おかしいですね・・・」
「・・・何がですか?」
「レターボックスの中には新聞が入っていません。今が朝の9時だというのに」
男は扉の隙間から手を入れてレターボックスを指さした。
「・・・もう読んで捨てたんですよ」
「捨てた・・・?」
「そうですよ」
最初のコメントを投稿しよう!