5人が本棚に入れています
本棚に追加
妻と同じ名だが、彼女がそう名乗ったのだ。
妻のミュウとの出会いは、一年前。仕事の帰りに寄ったこのバーだった。そのときも、今日と同じように、ミュウの立体映像が流れていた。
六宇がいつものように隅の席で飲んでいると、彼女が話しかけてきた。
はじめて会ったのに、そんな気がしなかった。彼女もブラックスターだったから、いつか、仕事中に会っていたのかもしれない。
どもりながら名前を訊くと、彼女は少し考えてから、「ミュウ」と答えた。適当に言ったことはわかっていたが、その夜、六宇は彼女を抱きしめながら、ベッドのなかでミュウの名を何度も呼んだ。
二十五年生きてきて、娼婦以外の女を抱いたのはそれがはじめてだった。
まるで、暗く深い夜の海を泳いでいるようだった。海中に差し込む星明りを背に受けながら、六宇とミュウは深い藍色の淵へ、絡み合いながら、どこまでも潜っていった。
朝になると、ミュウはいなくなっていた。
なんの痕跡も残さずに。すべて夢だったのではないかと錯覚するほどに。
六宇の心は、それまでに感じたことのないほどの空白に満ち、孤独に支配された。
それ以来、通勤路や工場で彼女を探したが、見つからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!