3 Undercover

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 箱の外縁に沿って、二メートルごとに衝立で仕切られた作業ブースが並んでいる。そのうちのいくつかには、すでに回収作業を開始している工員たちの背中が見える。  六宇は空いているブースに入った。ブース上部には局所排気装置の四角いフードがあった。死体から発散するホルムアルデヒドを吸引するためのものだろう。  腰の高さの作業台があり、およそ三メートル先の目線の位置に、横幅一メートル、縦幅六〇センチメートルほどの四角い供給口がある。その出口はこちら側に向かってやや低くなるように傾斜がかかっていて、手前にはややくぼんだすり鉢型のトレーがある。ここに死体が落ちてくるのだ。  作業台の真ん中にはタッチパネルがある。その右側の収納溝に、グリップとトリガーのついた長さ一メートルほどの吸引ノズルが突っ込まれている。タッチパネルの左には球体コントローラーがあり、台に埋め込まれた玉を手で回すと、トレーのキャタピラを回転させたり、トレー自体をターンテーブルのように回転させて死体の向きを変えることができる。  さっきビデオで学んだとおりに作業を開始する。  右手で吸引ノズルを掴む。ピストルのようなグリップの下は金属ホースのようなチューブが伸びていて、作業台の中につながっている。  左手で、タッチパネルの赤い起動ボタンを押す。供給口の向こうで、がたり、と無骨な音がした。     
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