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吸引ノズルを収納溝に置き、ブースを離れた。奥に「休憩室」と書かれた自動ドアがあった。中では、みな、マスクを脱いで、監督員から薬の補給を受けていた。すみっこで頭を抱えてうずくまっている工員もいた。一度外したマスクは回収され、休憩が終わると新しいものを受け取って装着する。
部屋の隅にウォーターサーバとコーヒーメーカーが置いてあった。壁際のベンチに座り、精神安定剤が混入されているであろうコーヒーを紙コップで飲む。
チップの除去処理をした死体は、兵士だけではなかった。軍事目的のチップが老人やローティーンの少年の死体からも出てきた。
軍人の生体チップは位置確認や個人識別のためのものだろうが、非戦闘員になぜそれらが埋め込まれているのだろう。なんらかのデータを採取するためだろうが、軍事会社、あるいは政府が、違法行為に手を染めているのかもしれない。
「あんた、この仕事はじめてだろ」
となりに座った工員が話しかけてきた。東洋系の男は、ほかの工員にたがわぬ虚ろな目をしていが、その瞳はわずかな理性の輝きを失っていなかった。
「なんでわかる?」
「動きがぎこちない。僕もこの仕事をやった記憶は消されているけど、身体が覚えてるんだ。ブラックスターが消せるのは、記憶のすべてじゃないってことさ」
「あんたは長いのかい?」
「一年ぐらいかな。あと、忠告しておくけど、薬をあんまり飲まないほうがいいよ。中毒性があるし、副作用もある」
「あれがないととてももたないよ」
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