3 Undercover

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「少ない接種回数で仕事を乗り切るにはコツがあるんだ。僕は反射的にそれができるようになってる」 「どうするんだ?」 「死体の目を見ないことと、彼らがこれから次の人生に生まれ変わっていくことを想像するんだ。あの穴の奥は子宮につながってるってな。そうすれば少しは楽になる。自分を産婆かなにかだと思うんだよ」 「ありがとう、やってみるよ」  その後、また二時間連続で作業をした。次の休憩では、配給されたチューブ・ゼリーでカロリー補給をした。あと二時間で上がりだ。精神的に辛く、スパイ活動どころではなかったが、今日は仕事の内容と作業場の様子がわかればいい。  休憩が終わると、ブザーが鳴り、また空いているブースに向かう。今回の休憩では薬の摂取を控えたので、ほのかな吐き気がしていた。ゲームかなにかだと思って、割り切るしかない。  東洋人、アラブ人、白人、黒人、混血、さまざまな人種の死体が流れてきた。多くは、市民権を餌に戦場に送り込まれた移民たちだろう。  さっきの男のアドバイスどおりにはいかず、六宇はつい死体の目を見てしまう。そのたびに、彼らが最後に見たものを想像してしまう。敵兵の顔か、それとも、基地や機内のモニターか。あるいは、家族や恋人の写真か。自分の腹から飛び出した腸か。切り取られた自分の性器か。     
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