3 Undercover

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 中には顔面がつぶれた死体もあり、目ではなくその奥の割れた頭蓋を見てしまうこともあった。穴の開いた頭を見ていると、彼らが「抜け殻」になっていることを実感できた。  空っぽの肉体に埋め込まれたチップを取り覗いて、来世の子宮につづく暗い穴へ落とす。  しかし、人が別の人間に生まれ変わることなどあるのだろうか。人の意識や魂などというものは、蝋燭(ろうそく)に灯された炎のようなもので、一旦消えてしまえば、同じ炎は二度と現れないのではないか。  そもそも、同じ蝋燭で燃えつづける炎も、ずっと同じ炎だと言えるのだろうか。炎が、そのアイデンティティを主張したとしても、彼が勝手にそう思い込んでいるだけなのかもしれない。  答えが出ないまま、その日の仕事が終わる。出口でマスクを回収され、また搬送車に乗せられた。後方の扉が閉まる直前、入れ替わりに別番方の工員たちが作業場に入っていくのが見えた。 車が走り出す。車内には震動に身を任せる作業員たちの疲れ切った顔が並んでいる。みな、顔色が悪く、老けて見える。  記憶をリセットされたら、また明日、何も知らずに出勤できるが、またあの悪夢のような初体験をするのだ。記憶を消さないままなら、今夜は悪夢にうなされることになるが、いずれ慣れてくるだろう。どちらがいいかはわからない。     
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