1 Blackstar

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 四階にある自室の扉を開けると、明々と点いた室内照明が六宇を出迎えた。正面の寝室の扉は開いたままで、脱ぎ散らかされたシャツや酒瓶の散らばったリビングには誰もいない。  キッチンを見ると、シャツ一枚のミュウが床に座り込んでいた。冷蔵庫に背中をもたせかけ、細い手足を無造作に折りたたんだそのかっこうは、まるで糸の切れた操り人形のようだった。肌は床の冷気を吸い取ったかのように青白い。  ミュウは眠っていなかった。長い前髪の隙間から見える切れ長の瞳はわずかに開いている。そして、なにごとかを、小声でぶつぶつつぶやいている。  六宇は妻に向かい合わせになり、両脇の下から腕を入れて抱き起こした。立ち上がると、ミュウはひとりで歩く。身体を支えてベッドまで誘導する。数日風呂に入れていない彼女の髪はすえた匂いがした。その栗色の長髪の隙間からブラックスターが見える。だが、十字星はその上にかぶせられた銀色の付属カプセルで隠れている。     
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