1 Blackstar

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 枕元のアラームをセットし、照明を消す。ミュウのとなりで六宇も横になり、ブランケットをかぶった。明日も早い。バーでだらだらと長居してしまった自分への戒めとして、シャワーは明日の朝までおあずけだ。  自分を強引に寝かしつけようと、六宇は強く目を閉じた。瞼の裏のどろりとした闇のなかで、火花がスパークするように明滅する。今日一日のことはなにも覚えていないが、酷使された目と筋肉には、たしかな疲労が刻み込まれている。身体は火照ったようにうずき、眠りを妨げた。  ベッドに入るたびに、六宇はいつも漠然とした不安に襲われた。いつしか、不安ははっきりとした畏れとなって、思考を支配しはじめる。このまま朝になって、夢とともに自分の記憶がどこかに流れ去っていたら――  ありえない話ではない。現に、ミュウはそうなった。記憶制御装置(ブラックスター)の副作用だ。安定した職や医療保障などの優遇措置を得るために装置を取り付けたのは本人の意思だというが、まるで願いと引き換えに魂を奪う悪魔のような装置だ。ブラックスターを付けた労働者は、所定時間数以上の記憶制御労働に従事する義務がある。ミュウは、障害が強すぎて、もはや通常の日常生活すら困難な身体になってしまった。     
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