1 Blackstar

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 ミュウのブラックスターには、六宇の月給の四分の一もする月額レンタル料金で、補助人工知能を取り付けている。それによって、食事や排泄程度の動作は介助なしでできるが、意識がないので、会話らしい会話はできない。  結婚して半年、ミュウはずっと夢遊病者のような状態だ。二か月ごとに支給される障害年金は、人工知能のレンタル料の三割にも満たない。その年金も、国の補償制度が変わったために、次回の給付を最後に打ち切られる。  となりに眠るミュウが、ごろりと寝返りを打ち、まるで添い寝をするように身体をこちらに向けた。  彼女の小さな手のひらに自分の手を重ね、細い指のあいだにごつごつした自分の指を滑り込ませた。妻はかすかな力でにぎりかえしてくる。耳元でくりかえされるリズミカルなミュウの寝息を聞きながら、六宇は、こわばっていた筋肉がゆるんでいくのを感じた。絡まっていた糸がするするとほどけていくようだった。  なにもかも、あきらめてしまったほうが楽かもしれない。そう思った。  固執していたものを放棄する心地よさ――死ぬときもこんな感じなのだろうかと思いながら、溶け落ちるように眠りについた。
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