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2 Dissonance
「はいおつかれさん。帰っていいよ」
白い天井。乾いた空気。鼻の奥を刺すような薬品の匂い。すぐそばで、白衣を着た中年技師が端末から伸びたラインの先端を持ち、なにかをチェックしている。
「大丈夫? 自分が誰だかわかる?」
おれは……誰だ。
「お名前は?」
「あ……、ロ、六宇……です」
そうだ。おれは六宇だ。
六宇は寝台から降りようとしたが、身体が鉛のように重い。脇腹と首筋が鈍く痛む。しばらく寝台に腰かけたまま、ぼんやりと、薄汚れたリノリウムの床に視線を泳がせた。一瞬頭をもたげた吐き気はなんとかやりすごし、少しずつ呼吸を整えていった。
「まあ、ゆっくり休んでいきなさい」
ほとんどの寝台は空いていた。工員の多くはすでに帰宅したようだ。その同僚たちとともに自分が今日一日どこでなにをしていたかはわからない。まるで長い昏睡から覚めたあとのように、頭がぼおっとしている。
しばらくして、これ以上体力が回復しないと思えたところで、ふらりと立ち上がった。
「はい、更衣室あっちだからね。制服脱いでいってよ」
技師は、ほかの工員の後頭部に機器を接続しながら、もう片方の手でドアを指差す。
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