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吹き出した周に梢は「あはは」と乾いた笑い声を出した。
「ごめんね。こないだ友達とカラオケ行ったって言うから好きなのかと思って」
2時間滞在したカラオケ店を後にして、梢たちは駅前のファミリーレストランに来ていた。
「周先輩、笑いを堪えるのはやめてください……。周先輩は歌上手いですよね。聞けて幸せでした!」
「俺も幸せだよ。……くくく」
「だから……もうっ」
梢が頬を膨らませると、周は「ごめん」と謝りながら、やはりその顔は笑っていた。
側から見ればとても初々しく、幸せそうなカップル。けれど、数時間後にこの関係が壊れているかもしれない。そう思うと梢は今のこの時を精一杯楽しもうと努めた。
勿論、全てが杞憂であることを願って。
「そういえば、昨日配られた部誌読んだよ」
「ああ……。どうでした? オーブの写真」
「綺麗に撮れてたね。梢ちゃんはどの記事書いたの?」
「ええと、音楽室の肖像画の目が光ったと思ったら猫でしたってヤツを……」
「あはは! 七不思議なんてそんなもんだよね」
食事を終えると、周がテーブルに置かれた伝票を持って席を立った。
「行こうか」
「あ、はい!」
梢が財布から千円札を取り出すと、周はやんわりと断った。
「これくらいご馳走させてよ」
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