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出来れば佐野と田中の言うように、野神沙耶香の浮気相手が真犯人であって欲しいと願った。
周とは午前10時に品川駅で待ち合わせをしていた。
約束の5分前に指定された場所に着くと、すぐに周が梢の元へやって来た。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いえ、今来たばっかりですよ」
「ごめんね、梢ちゃんち渋谷なのに、ここまで来てもらって」
確かに品川よりも渋谷の方が遊ぶ場所は沢山ある。けれど、周は渋谷が苦手だということだった。梢もあまり人が多いところは霊も集まっていることが多いから苦手だ。ここへは通学で行き慣れているし、昼食を済ませたら蒲田にある周の家に行くことになっているから距離的にも都合がいい。
「梢ちゃんてカラオケ苦手?」
そう、才色兼備である梢の唯一の弱点は“歌”であった。
店に入ってからどうにかして歌を歌わない状況を作ろうと必死に会話をしたり、周に歌わせるためにリクエストをしていたのだが、残り時間あと10分というところで梢にリクエストしたいと、周は勝手に曲を送信してしまった。
逃げ場を失い、半ばヤケになりながら歌い切った梢は過酷な試合で燃え尽きたボクサーのようであった。
「いえ! 人の歌を聞くのは得意ですよ!」
「それって得意って言うのかな」
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