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「ごめん、気分良くないよね。梢ちゃんはおばあちゃんのことも信頼してるし、実体験もあるんだから。俺は体験したことがないからさ。どうしても目で見た事しか信じられないんだ」
「いえ、ほとんどの人がそうだと思います」
「この世には目に見えないものが多すぎるよね……」
遠い目をして周が零したその言葉の意味をこの時の梢は単にオカルト的な事に対して言われたものだと思っていた。
小嶋家に到着すると、カーポートに車はなかった。
「ご両親は?」
「今日から旅行。一泊だけどね」
「え! 先輩行かなくてよかったんですか?」
「高校生にもなって親と一緒に旅行なんて行かないよ。それに兄ちゃんも置いていけないし」
「それもそうですね……」
梢は門を潜る時にさりげなく周囲を見渡した。
目視できるところに理恩の姿はない。
もしものことがあったらすぐに助けにいくとは言っていたけれど、一体どこに潜んでいるのだろうか。
念の為、鞄の中にあるスマホは理恩のスマホと通話が繋がったままにしてある。この為に部員全員で連絡先を交換したのはつい昨日のことだった。
「梢ちゃん……」
玄関に入り、扉が閉まったと同時に周は梢をふわりと抱きしめた。
「わ!」
予想していなかった周の行動に梢は素っ頓狂な声をあげた。
「しー」
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