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そう言って梢の鼻先に周の人差し指が当てられた。梢の心臓が大きな音を立てて早鐘を打つ。静かな玄関ではその音が聞こえてしまうのではないかと梢は息を止めた。
「梢ちゃん、息して?」
「は、はひ」
至近距離に周の綺麗な顔がある。
しかし、その瞳を見つめたとき、梢は言い知れぬ寂しさのようなものを感じた。
「可愛いな、梢ちゃんは。あ、スマホの電源は落としておいて」
「え……。なんでですか?」
「疑ってるわけじゃないけど、おばあちゃんに聞かれたら恥ずかしいから」
「思いっきり疑ってるじゃないですか。盗聴なんてされてないですよ」
そう言いながら、理恩に盗聴されている事実に梢は冷や汗をかいた。
「本当かな」
じっと見つめられ、梢は観念したように視線を外した。なんにせよ、理恩に周とのやり取りを聞かれていると思うと恥ずかしさで死ねる。
「……わかりました」
梢は鞄からスマホを取り出すと画面を周に見えないようにして電源ボタンを長押しした。
「ありがとう」
頭の上から降る優しい声と柔らかな声に梢が視線を上げると、額に柔らかな唇が押し当てられた。
「ひゃ……」
「上がろうか」
腰が砕けてしまいそうになっている梢の手を取ると、周は微笑んだ。
惚けてしまいそうになる自分を戒めながら、梢は玄関から家の中へと上がった。
「どうする? すぐに兄ちゃんと話す? それともお茶でもする?」
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