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「……あんまりイケてなかったから見せたくないなあ。それよりDVD借りてるんだ。見る?」
「え? 何借りたんですか?」
「去年の夏にヒットしたやつ。原作が小説の」
「あ、泣けるヤツだ。見たかったんですよ」
それからたっぷり2時間映画を堪能し、しっかり泣いた梢は我に返った。
これでは単にデートをしているだけではないか!
脳裏に理恩の仏頂面が思い浮かび、姿勢を正し、涙を引っ込めた。
「あの、そろそろお兄さんに……」
「ああ、霊視してくれるんだっけ」
「はい。あの、集中したいんで少しの間だけでいいからお兄さんとふたりにしてもらえませんか?」
「俺がいたらダメなの?」
周はそう言って梢の濡れた頬に指を添え、再び小動物の瞳で見つめた。堪らず視線を外した梢の顔は瞬時に赤く染まった。
「周先輩がいると……こう……雑念が入るというかなんというか!」
梢は早口で捲し立てると、ソファから立ち上がり物理的に周との距離をとった。
「わかった……。じゃあ俺は隣の自分の部屋にいるよ。何かあったら呼んで」
「は、はい!」
2階へ上がると廊下を進み、一番奥のドアを周は前回同様ノックした。
「兄ちゃん。起きてる?」
「…………」
部屋の中から返事はなかったが、小さな物音がする。
「……開けるよ」
周はひと言そう告げると、扉を開いた。
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