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「にゃあ」と鳴き声をあげると、軽やかに優花は屋根の上から姿を消した。
それからどのくらいの時間が経っただろうか。
いつの間にか、うとうとしてしまっていた理恩の膝の上に暖かく柔らかな重みが乗った。優花だ。
「やべ。寝てた。なんかあったか?」
しかし、中身は優花でも肉体は猫である。
優花は必死になにかを訴えようとしているが、にゃあにゃあとしか理恩には聞こえない。
「なるほどわからん。これに打って」
スマホを優花の目の前に置くと、優花は肉球を画面に押し当てた。結果としてわけのわからない文字が羅列されるだけだった。
「無理か」
「みゃあ! にゃあ!」
「もしかして、ここから出たのか?」
必死に理恩のシャツの袖を咥えて引っ張る優花に嫌な予感が湧き上がる。
「どっちいった! 行くぞ」
屋根の上からベランダへ、さらにそこから裏庭に生えている木へと飛び移る。流れるような動作で地上へと音もなく降りると、理恩は優花と共に走り出した。
だが、家の前の道路を見渡しても梢の姿はなかった。
「くそ」
その時、ズボンのポケットに入れてあるスマホが震えた。
「もしもし」
『もしもし、宝生くん? これ関係ないかもしれないんだけど一応報告しておかないといけないと思って』
佐野だった。
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