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このひと言をこの人に出来れば言いたくなかった。けれど言わなければならない。
「どうして……沙耶香さんを殺したんですか?」
絞り出すようにして出した梢の声が屋上へ木霊した。
「沙耶香は鍵を持っていなかった。兄ちゃんに渡してたんだ。それに全てを告白していたよ。どうして……か。どうしてなんだろう。気づいたら沙耶香の身体を押していた。気づいたら沙耶香の身体は地面に落ちていて、気づいたら死んでた。どうしてかな、好きだったのに。ご丁寧にダイイングメッセージまで残してさ。消してやったけどね……」
周は、ブツブツと言葉を零しながら、焦点の合わない瞳に梢を映した。
「梢ちゃんも本当は兄ちゃんのことが好きなの? 最初から兄ちゃんに近づくために俺に近づいたんでしょ? 兄ちゃんは凄いよ。なんでも持ってる、なんでも持っていく」
言っていることが支離滅裂だ。
「そうか。だから俺は沙耶香を殺したんだ。兄ちゃんになんて……持って行かせない」
一歩、また一歩と周は梢に近づき、梢はじりじりと柵へと追いやられた。
「バイバイ、梢ちゃん」
数時間前、梢を抱きしめたその手が、今は梢を突き落とす為に彼女の肩へと触れた。
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