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08.ゼロの体温
トン、と軽く梢の肩が押され、梢は力なくよろめいた。
背中に柵が触れる。まさにその瞬間、屋上の扉が勢いよく開いた。
「梢!」
理恩の言葉に、周が振り向いた。と同時に、黒猫が周に突進した。バランスを崩した周はその場に尻餅をついた。その一瞬の隙をついて駆け寄ってきた理恩によって腕を掴まれた梢は、屋上の中央まで移動させられた。
梢の背が触れるはずだった柵の一部が外れ、ぶらりと揺れた。どうやら補修は完璧ではなかったしい。あと一秒でも理恩が来るのが遅ければ、どうなっていたかわからない。
「な、なんで?」
「話は後だ。で? コイツが真犯人で間違いねえな?」
コクリと梢が頷いた時、空を漂っていた白い雲が渦を巻き始めた。
その雲が地上を照らしていた太陽の光を遮断し、辺りはうす暗く、ひんやりとした空気が漂った。
「宝生くん」
「ああ、来るぞ」
突然起こった異常な状況に尻餅をついたままの周がキョロキョロと辺りを見回している。
「あ……あ、あ」
周の目の前に黒い煙のような物体が現れた。
これまで何も感じていなかった周にもそれは見えるようだ。信じられないようなものを見るようにして目を見開いている。
――どうシて。
梢の脳内にそんな言葉が響いてきた。
あの黒い煙。野神沙耶香の霊から発信されていることは明らかだった。
――どうシて殺シたの?
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