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煙の中心部がだんだんと人の形を造る。
遺影に写っていた彼女とはあまりにも雰囲気がかけ離れているが、紛れもなく野神沙耶香、本人であった。
そしてその姿は梢の目にもはっきりと映っていた。
「宝生くん……視える、視えるよ!」
「何感動してんだ。構えとけ」
「う、うん!」
梢はポケットから数珠を取り出すと、左手へとかけた。緊張からか指先が震える。
「さ……沙耶香……!? お、おまえが悪いんだ! 俺を裏切るから!」
震える声を張り上げ、周は沙耶香から逃げようと必死に後退りをする。
――うるさい、うるさい、うるさい……! 殺シた! おまえは私を殺シた! だから殺す……殺す……!
もはや怨霊となった沙耶香にはどんな言葉も届かないのだろう。
「ヤバイな。このままだと連れて行かれるぞ」
非常事態だというのに、相変わらず落ち着き払っている理恩に梢は「どうすんの!」と声を荒げた。
「まず話が出来る状態にしないと」
「だから、どうやって」
「優花!」
理恩が呼ぶと、黒猫はすぐに理恩の元へ駆け寄ってきた。
「優花を降ろせ。今のおまえなら出来るはずだ」
「そんなの今まで通り勝手に憑けば……」
「それだとおまえが乗っ取られるだけだろが。自分の意思で降ろせ」
「で、でも……どうやって……」
「早く! ばあちゃんをずっと見てたんだろが!」
そうだ。
梢は幼いころから祖母の交霊を間近で見てきた。
「……魂を……重ねる……!」
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