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「いや、正確にはこの黒猫に憑依してるヤツ。優花っていうんだ」
「お……お知り合い?」
「まあな。懐かれちゃって困ってる」
黒猫はゴロゴロと喉を鳴らしている。梢は学生鞄を強く抱き締めながら、理恩と黒猫を交互に見た。困っていると言いながらも邪険に扱うような素振りはない。それにこの黒猫からは邪悪なものは感じないが、一応警戒はしておこうと梢は思った。
「あなたって優しいのか、そうでないのかわかんないわね」
「おまえは度胸があるのかないのか、よくわからん」
「けど」と理恩は黒猫の頭を撫でながら言葉を続けた。
「お前の言う通り、俺には霊の声が聴こえない。それでも強制的に除霊することは出来ないこともないが……出来れば話して納得の上、成仏させたいからな。梢には協力してもらう」
梢はゴクリと喉を鳴らした。
「守れ、とか言ったな。言われなくても俺が傍にいるうちは守ってやるよ、ってなんだその顔」
イケメンが言えばときめくだろうセリフは、驚く程に梢の気持ちを萎えさせた。
「……なんでもない。じゃあ、そういうことでよろしく。相棒」
「誰が相棒だ」
美少女と瓶底メガネと黒猫の影が、夕暮れに染まる街並みに溶けていった。
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