03.生霊

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「梢がトイレいきたいっていうんで、俺待ってます」 「あ、うん。わかった。って私が待ってようか?」  神楽坂の申し出に理恩は「そうしたいところですけど、女子ふたりより男の俺がついてた方が何かと安心だから」と体良く断った。 「そっか。そうだよね、念の為ってやつね。じゃあ私たちは先に戻ってるから」 「はい」  ひらひらと手を振って大森たちを見送ると、優花が「別にトイレ行きたくないけど」と文句を言った。 「あの人たちについてこられたら面倒だろが。行くぞ」 「なるほど! オーケー」  理恩が言うようにほんの少し前までは危険な類の霊はこの校舎にはいなかった。  だが、今は――明らかに負の感情を撒き散らしているモノがこの階にいる。 「……1組か」  この階には1年生の教室が1組から8組まである。  一番端に位置する1組の教室から禍々しい空気が漂うのを、理恩も優花も見逃さなかった。 「悪霊……っぽいけど、この感じ……」 「多分、生き霊の類だろうな」  生き霊とは、生きている人間が誰かを思うあまり、無意識、又は意識的に魂だけをその人のところへ飛ばし、取り憑くものだ。殆どが恨みや嫉妬などに起因するから悪霊だが、稀に守護霊のように対象の人間を見守るものもある。 「でも、今ここに誰もいないよ?」 「ああ、それなんだよな……」     
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