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1組のすぐそばまで来た理恩は、そこで人差し指を自分の口元へ当てた。それにならい、優花も同じように人差し指を口元に当ててから耳をすませた。
「……なんか言ってるよ……? “……ない”?」
「どうする?」と優花が視線だけで理恩に問いかける。理恩はそっと、教室の扉に嵌められている窓ガラスから中の様子を伺い見た。
どうやら、スーツ姿の男性が「ない」と呟きながら教室内を彷徨い歩いているようだ。
何かを探しているのだろうか。それとも取り憑く先の人間を? そんなものを探すなんて生霊は聞いたこともないが、このまま放置して誰かに取り憑かれたら不味い。
理恩はゆっくりとした所作でメガネのテンプルに指をかけた。
「おまえはここにいろ」
短く言うと、理恩はメガネを外しながら教室の扉へ手をかけた。理恩の素顔が見れたことに優花は思わず歓喜の声を上げそうになり、慌てて自分の両手で口を覆った。
瓶底メガネを外した理恩は、あろうことか美少年であった。全ての物の美しさというのはそのバランスにある。分厚いレンズによって極端に小さく見える目は、他の均整のとれたパーツのバランスを見事に崩していたのだ。更にその両目にはコンタクトレンズが装着されていたらしく、慣れた手つきで外していった。
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