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大森は野神のことを生徒から人気のある教師だと言っていた。離職してしまえば懐いていた生徒も疎遠になっていくのだろうか。そう考えると寂しいものだな、と梢は思った。
「早速ですが、お線香をあげても?」
紅茶を人数分淹れ終えたところで理恩が言葉を発した。
「ええと、君は」
「1年の室生と言います」
「宝生くん……。それに大森と神楽坂以外は私のことを知らないはずだが……。沙耶香とは面識が?」
野神の疑問も当然のことだろう。神楽坂は野神に何人かでまとまって行く、としか伝えていなかったのだから。
「初めまして。2年の佐野です」
「同じく2年の田中です」
「あ、ええと1年の小比類巻と言います」
「野神先生、俺たちは――」
大森がここに集まった人間がオカルトミステリー研究部のメンバーだと言おうとしたところで理恩が割って入った。
「自己紹介は後にして先に沙耶香さんにお線香を」
「あ、ああ。こっちだよ」
藪から棒にオカルトミステリー研究部だなんて言えば、興味本位でここへ来たのかと野神に与える心象が悪くなる。理恩は慎重にことを進めたかった。
一方、全てを話すと理恩に言われていたのに言動を止められた大森は若干腑に落ちない表情を浮かべていた。
野神に案内されたのは、客室の向かいに位置したこれまた和室であった。
襖を開けた途端に線香の匂いが一層濃くなった。
「沙耶香、お友達が来てくれたよ」
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