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野神が話しかけたその先には生前の沙耶香が梢と同じ制服に身を纏い、屈託のない笑顔で写る遺影があった。
仏壇に向かいおりんを鳴らすと、野神は丁寧に手を合わせ、暫しの間目を伏せてから、大森たちに視線を向けた。
「どうぞ」
「失礼します」
順番に線香を焚く。
梢は明るく笑う沙耶香の遺影を前にして、胸が苦しくなった。自分と同じ年齢で命を失ってしまった彼女のことを思うと、自殺であれ、他殺であれ、言い様のない悔しさが込み上げる。
「梢」
鼻の奥にツンとした痛みを覚えた時、背後から理恩に声をかけられた。
「な、なに?」
「あまり感情移入するな」
小声で言われたひと言に祖母から言われた言葉が重なり、梢は「わかってる」とだけ答えた。
「そう言えば、奥さんはお出かけですか?」
再び客間へと戻ってきた時、神楽坂が野神へ問いかけた。
「……いないよ。1年前に離婚したんだ」
苦笑する野神に「す、すみません!」と神楽坂は勢いよく頭を下げた。
ああ、だからこの家には生活感が感じられないのだ、と梢は納得した。勿論、野神が普段生活している部屋は違うだろうが、梢たちが案内された場所は普段使っていないのだろう。
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