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「いいんだよ。沙耶香を亡くしてから、こうして職も失ってしまった私には、妻を引き止められるものが何も無かった。それに妻は辛くても必死に明るく過ごそうと努めてくれていたのに、私にはそれが沙耶香のことを過去にされるようで許せなくてね……。少し考えればそんなことは絶対にないことはわかるのに、あろうことか私は妻を責めてしまっていた。離婚されても仕方ないんだ……なんて話を聞かされても君たちには迷惑だね、すまない」
泣くようにして笑う野神に部屋はしんと静まり返った。
そんな沈黙を破ったのはやはりこの男、理恩であった。
「野神先生は沙耶香さんが自殺をした。と思ってますか?」
「……え……」
いよいよ本題へ触れるのだと思ったオカルトミステリー研究部の面々は固唾を飲んで理恩を見つめた。
「……警察がそう判断したんだ。仕方ないだろう」
「と言うことは、本心ではそう思っていない。そうですね?」
野神は驚いたように目を見開き、それから湯気を立てているカップへ視線を落とした。
「……あの子が……沙耶香が自殺なんてするはずがない。証拠はないというけど、遺書だってなかったんだ。自殺をした証拠だってないはずなのに……」
そう絞り出すような声を出し、野神は身体を震わせた。
「実は……俺達たちもそう思ってます」
野神が理恩を見た。
その瞳は揺らぎ、乾いた唇はぽかんと開かれている。
「なんで……」
「これから話すことは冗談でもなんでもありません。ましてや興味本位なんかでもない。その事を理解して聞いて頂けますか?」
梢は驚いた。
こんなまともな対応をする理恩を初めて見たからだ。
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