04.鍵

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「野神先生は何か気がかりに思っていることがあるんじゃないですか?」  野神の揺れる目の振り幅が大きくなった。 「……一度だけ。沙耶香が亡くなる直前にあの子が謝ったんだ」 「謝った?」  理恩の問いかけに野神は頷いた。 「沙耶香は小さい頃から嘘をつくのが苦手でね。悪いことが出来ない性格だったんだよ。何か言えないことをしてもすぐに謝ってしまうような子だったんだ。あの日は……大切な鍵をなくしてしまったと言って謝ってきた」 「鍵?」 「君たちはあの学校の生徒だから詳しくは言えないが……。普段は理事長が保管している鍵だ。使用後は必ず理事長へ返さなければいけなかったんだが……うっかり持ち帰ってしまったことがあってね。慌てて理事長へ電話したら次の日に返せばいいと言われたから玄関に置いておいたんだが……」 「鍵がなくなっていた?」  理恩の言葉に野神は頷いた。 「最初は妻がどこかへ移動させたのかと思ったが、知らないと言うから沙耶香に聞こうとしたら、いつもは私より遅く家を出る沙耶香がその日は朝早く出る用事があるとかで先に学校へ行ってしまっていてね。その時は自宅の鍵と間違えて持って行ってしまったんだろうと大して気にしてなかったんだが……」  そこまで言ったところで野神は片手で顔を覆った。     
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