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「いつもなら沙耶香とは学校で何度か顔を合わせるのに、その日は何故か会えなかった。私も鍵を返さなければならないから少し焦っていてね。やっと沙耶香を捕まえたのは放課後の教室だった」
「それは旧校舎の1年1組の教室ですか?」
「ああ……確かそうだった。私が教室に入った時、沙耶香は付き合っていた男子生徒と二人で話していた」
「小島尊と……ですか?」
「そうだ。なんだか揉めているように見えたから咄嗟に間に割って入ったんだが……。尊くんは穏やかな性格だから、ちょっと驚いてしまってね」
と、いうことは小嶋尊の方が野神沙耶香を責めているように見えたということだろうか。
「声をかけたら、沙耶香を残して尊くんは逃げるようにして教室から出て行ってしまった。追いかけなくていいのか? と聞いたけど沙耶香は困ったように笑って首を振るだけだったから、そこまで深刻な話をしていたわけでもなかったのかもしれないが……。その後、沙耶香が謝ってきたんだ。鍵をなくしてしまったと」
もう湯気の立たなくなった紅茶のカップを野神は両手で包むようにして持った。
「その時は間違えて持って行ってどこかへ落としてしまったのだろうと思った。だって、あの鍵を沙耶香が必要とするとは思えなかったし、思いたくなかった。でも今思うと沙耶香は金庫の中身を知っていて、わざと持って行ったのかもしれない。わざと持って行ったんじゃないんだろう? と聞いてもあの子は何も言わなかったから」
「金庫には何が?」
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