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プロローグ
――どうして。
そう呟いた少女の声は、真冬の誰もいない学校の校舎裏に吹いた風に掻き消された。否、そう呟いた気がしただけで、実際には音声になっていなかったのかもしれない。
焦点の定まらない視界に映るのは、青。
反対に少女が横たわる地面には真紅の液体が灰色のアスファルトをゆっくりと侵食していく。
青と赤の狭間に見えたのは屋上の錆びた手摺り。その規則正しく並んだ鉄格子の一箇所にぽっかりと空いた空間がある。
ああ、私はあそこから落とされたのだ。と少女は理解した。
……どうして。
命の灯火が消え去ろうとしている中、最後の力を振り絞るように自ら流れて出た血液を使い、アスファルトへ書き記したアルファベット二文字も、少女の声同様、この場に現れた人物の靴底によって掻き消された。
だが、少女にはもう痛みも感情も感じることが出来なかった。
心臓がその動きを止めてしまったから。
けれど、開いたままの瞳には、悲しみと疑問、そして怒りが色濃く映し出されていた。
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