愚者の幸福論

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「月島(私の名だ)さんって、なんだかかっこいいよね」 突然私の名を呼ばれ、ぎょっとして声のした方を見る。 ……確か、佐藤だ。 佐藤は私を見てニコニコと人当たりの良い笑顔を浮かべてこちらを見ていた。 おめでとう。進級してから私に話し掛けてきた奴第一号だよ君は。   私がクラスメイトを見下していることを、クラスメイトも本能的に感じているのか、誰も私に話し掛けてこなかったのだが、ついにその均衡が破られた。 急に話すと喉が引っ付いて声が出ないから、一度咳払いをしてからとりあえず言葉を返す。 別に私は、誰かと話せないとか、コミュニケーションが苦手とか、そういうわけではない。 ただ話す機会がないだけだ。 「……そうかな。初めて言われたけど」 佐藤は私が反応すると一際嬉しそうに、私の隣、前田の席に座って話し始めた。 「うんうん、めっちゃクール! 私も月島さんみたく、カッコイイ女になりたいなって思っててさ」 口から出ている言葉と確実に真逆の趣向な背格好に声色だ。はっきり言って、こういう女は好きじゃあない。 媚びたければどうぞ、余所でやってくれ。 そういう意味を込めて、嫌味を言ってやる。     
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